刀ミュ衣装についての感想と考察

服飾のプロ目線の刀ミュ衣装についてのあれこれ

源氏双騎の二部衣装

同行者が無言になるくらいにライブパートで泣いた源氏双騎の話

 

2019/08/18 一部加筆修正しました

 

双騎は推しキャラです。ゲームだけの時から最推しの膝丸です。よって冷静に書ける気がしません。多分そのうち編集してくれると思うので、今回は思うがままにパッションをぶつけます。わかりにくいところは「なにそれ?」「どう言う意味?」と投げていただければ言葉をひねり出して答えますのでお気軽にどうぞ。
解説というよりもただの雄叫びレポートです。編集に期待しましょう。

 

まず、双騎が決まった時にどんな衣装かな〜なんて浮かれて大予想大会みたいなトークをしまして、その時に「がっつり洋装を見たい」と言いました。
『つはもの』はthe和というほどではないですが随所に和のテイストが盛り込まれていました。みほとせ初演みたいな軍服テイストやプリンス系の源氏、見たくないですか?私は見たいです!!!単純にカチッとした洋装が好みというのもあります。

 

第一形態
劇場で見ました。泣きました。え?は?

あの源氏兄弟にフリルたっぷりのゴシック調着せる??まじかよ。
動きに合わせてひらりひらりと裾がなびきキラキラと輝き(エフェクトではなく生地が物理的に)レースが揺れる。なんじゃこれ。
たっぷりレースが似合うのは加州清光くらいだと書きました。レースのタイが似合うのは蜂須賀虎徹くらいだとも書きました。

源氏兄弟もありだった。デザイナーさんありがとう。天を仰ぎ神(この場合は刀の付喪神)に祈りを捧げたい。
ついに頭おかしくなったかな?って思いましたよね。あってます。初見の劇場ではライブパートスタートで泣くというやばい人でした。

 

さて、落ち着いて衣装を見て解説しましょう。(ディレイ何十回と見ました。焼き付けました)


パッと目を引くのはその豪華さ

たっぷりのレース。ヒラリと広がる裾の綺麗なライン。肩にたっぷりと寄せられたパフ(丸み)と広がった袖口が優雅さを醸し出してます。そして何よりキラッキラの生地。見惚れます。魂を抜かれました。

色が白と黒だけです。(+紫後述します)
そしてそれぞれメインカラーじゃない方にキラキラの生地(細かいスパンコールがついているやつでした)を使っています。これは色違いの生地です。

メインカラーの生地は色違いじゃないんです。
髭切はジャガード織りの白い生地。白一色なのに優美な柄に光沢があって上品!ウェディングドレスとかで使いそうな生地だなあと思いました。
膝丸は黒地に銀の細かいラメ。パリッ、キリッとした印象です。


インナー風のベストはそれぞれのメインカラーでその共布。

ここにはくるみボタン(布で包んであるボタン)を使い他の装飾はありません。ここに無駄な飾りをせずにシンプルに仕上げていることで他が引き立ちます。


ドレスコートの前端には惜しげなくたっぷりとレース。袖口にもレース。この分量バランスがさすがですね。多分デザイナーさんの得意分野じゃないでしょうか。加州単騎の時もゴシック調のデザイン上手いなーきっと好きなんだろうなーと感じました。
そしてレースのアスコットタイ。白地の方についた黒の刺繍飾りも目を引きますね。
ここまでが第一印象です。この先の細かいところがすごい。

 

まずブラウス(服装のテイストからシャツではなくこちらを使います)はメインカラーと逆。つまり
髭切は黒のブラウスに白のレースタイ+白のベスト
膝丸は白のブラウスに黒のレースタイ+黒のベスト
となります。メインカラーの使いどころのうまさ!!
ちなみにパンツはメインカラーそのままで生地は普通の無地です。

ブラウスの衿はアスコットタイに合わせてきちんとウィングカラーです。

レースタイには紫のリボンがついています。しかもベロア(違ってたらごめんなさい)高貴!!さらにコートのスタンドカラーも紫で細く金の縁取りがあります。
この紫色がアクセントになって全体を引き締め、黒と白をより際立たせています
裏地もトーンおさえめの薄紫です。細かいっ。
紫と同じく金色もアクセントになっています。スタンドカラーの縁取りと、パンツの脇のライン(こちらは太めにしっかり)入っています。
ドレスコートで隠れるパンツですがしっかりと装飾されていてさらには編み上げブーツを合わせていて最高ダンスでちらりちらりと見えるおみ足ありがとう!!

もっと細かくいうと、衿の縁取りの金色は鈍い色を使うことで過剰な派手さを出さないようにしているし、コートの丈はやっぱり髭切は長くボリュームもあり膝丸は短め。
そして内袖はここでも別布です。これは多分舞台衣装業界では常識なのかな?(他からの伝統ある舞台のキラキラ衣装も内袖には飾りがなかったので)
凹凸のある生地や飾りは引っかかりやすく袖下は摩擦が起きやすい部分なのでそのための対処かと思います。

(ここはつはものの記事で触れています)

 

レースたっぷりなんだけど可愛らしさはなくて、美しさ、気高い、優美、っていう言葉が似合う。源氏兄弟にぴったり。ゴシック調っていうと加州単騎を思い出しますが、こっちはキュート、妖艶、ゴージャスなんですよね。双騎はモノクロで装飾が控えめだけど決めるところはガチッと決まってて色使いも装飾も上手い

 

足し算に足し算してさらに足し算したところにちょっと引き算、みたいなすっごい絶妙なバランスですよ!
ありがとうありがとう。これのブロマイド早く売って!

ちなみに、清光は掛け算に掛け算を重ねてさらに掛け算していきなりドーンて引いたうえに足し算だなと思いました。

 

ダンサーさんの衣装も色も紫系だしレースタイ(紫のリボン付き)と、裾にぐるりと金色のレーステープがついていて源氏兄弟との一体感出てたのも良かったです。このレーステープと源氏のパンツの脇のラインが同じ資材なのかはちょっとわかりませんでした。しかもマントついててかっこいい。ひらみやばい。(第二形態からはマントなしになってましたし第三形態ではいつの間にかキモノ風のトップスにかわってた)


第二形態
引き抜きじゃなかった!お着替えしてきましたよ。ワオ。


この時に腰に巻いた布の内側が赤地に白の横二本線です。初見で「なんでこれ?なんの意味があるんだろう」ってずーっと思ってました。今までのデザイン傾向からは異色で違和感がありました。意味がないはずはない。でもそのこれを入れた意味がわからない。
白状します。私は頭弱いちゃんです。歴史…ウーン本能寺で信長が死んだのは知ってる。江戸幕府徳川家康!(ドヤ顔)っていうレベルです。歌舞伎や能、古典演劇なんてもってのほか(見たことあるってのと知ってるのは違うんです)。双騎にあたって「曽我物語」を慌ててググってウィキ読んでなんとなくふわっと理解できないまま見ました。
千秋楽の後Twitterの博識の皆様のおかげで、歌舞伎『曽我兄弟』のお衣装の柄だと知りました。ナルホドナー。

ここからはものすごく個人的な意見です。
分かる人しか分からないネタで、しかも一部(ミュージカル)側の要素を見てわかりやすいところにぶち込んで欲しくはなかったです。
わかった人は楽しかったと思います。でもわからなかった私は、何で?なに?何なの?って混乱している間に腰布がなくなりました。勉強不足といえばそれまでですが、事前に下準備をしなくとも楽しめるものであって欲しいと、私は願っています。気にしなきゃいいじゃんって話なんですけどね。もしかして気になってたのはこういう職業病的なものですかね…

 

さてこの腰布、おもて面は何とあのキラキラスパンコール布で縦にずばんと装飾されています。右側にキラキラ布と金のライン。ただの無地一枚にしてないところがさすがです。
そして腰布を取るといつもの感じ。

肩章にロープ飾りに肩布(イメージカラー)に腰のふわふわ布と全部盛り全部盛ってるのにうるさくないのは何で?色か!
膝丸はロープが銀色で全体的にシック。縁取りや肩章のふさの金色も鈍い色です。

そんでジャケット短いじゃん。ありがとう。これぞ膝丸、わかってるー!!下から出ているシャツが白黒で、白一色じゃないのが戦装束じゃないぞって感じがいいです。
髭切はジャケットはやっぱり丈が長い。そして装飾全部盛りはお揃い


このジャケットは半身(はんみ)が合皮っぽいモヤモヤ柄の布です。派手さはないけど地味すぎず、舞台での『映え』があるなと感じました。

柄合皮(正確には素材不明とのこと)はありなの?ってところは、全体に色味を押さえてシックに仕上げてる中で、地味になりすぎずっていうとあれがよかったんだろうと思います。
膝丸は黒と白に対して、髭切は白がメインなのでブラウンをサブカラーにしています(前回つはものもそうです)。この半身だけ色違いの合皮っぽい生地にしてあるところはお揃い感が強いのですが、髭切は袖まで合皮(って呼びます)に対して膝丸は袖は普通の生地で肩の飾りまでが合皮。
こういう「お揃いだけど違う」っていうのがいいですね。正面の装飾も全部盛りの装飾もおんなじなのに、全体のシルエットが全然違くそれぞれのキャラクターが出ている。

後ですね、パンツは普通の布って第一形態で書きましたけど、地味に織り模様入ってました!この第二形態で上下セットになるんですねえ。なるほど。
もう一つ、袖口ですが、コートの袖よりも広がっています。これは引き抜きだったらできなかったやつ〜(下に着てる方がボリュームあるとゴワゴワする)。ジャケットの裾がひらひらしていない分袖口を広げることでエレガントな雰囲気をだしているように見えます。


装飾とかめっちゃ細かいところまでこだわってるけど書ききれないからこの辺で。(レース叩きつけの上に飾りボタンとか前端の紫の布とか!!)

髭切のジャケットの裏地を白ではなくブラウンベージュにしているところと、膝丸のジャケットの下から出てるシャツのウエストをくびれさせたパターンにしているところが好きです。

 


第三形態
第二形態のジャケット脱ぐと思ったじゃん?まさかのちょっと引っ込んで(しかも見えてる)お着替えした。

 

このキモノ風のトップスは双騎全体の中で見るとアリだなと思いました。合間の加納さんの舞のシーンとも繋がって、初見でここに和を入れてきた時はえ?っと思いましたが全体の流れを見ると納得しました。

左右色違いはまだしも両方とも柄生地を持ってくるところは挑戦的で上手な組み合わせの生地を選んだなあと思います。
柄on柄って難しいじゃないですか。
パンツはシンプルで編み上げロングブーツもそのまま。そこに一枚で映えるトップスというのは中々です。

後、早替えなんで、ガッと羽織ってパッと止めて多少緩んでてもキマる形にしてあるのは工夫ですね。

インナーに関しては私は好きではありません。否定的なことはあまり書きたくないと思っていますがこれははっきり言います。
そりゃあ素肌出されたら見ちゃいますよ。人間だもの。でもこれはここまで露出する必要あった?と思います。
第二形態でインナーをチラ見えさせたくなかった、キモノ風トップスに合うインナー、等々理由はあるでしょう。
が、源氏の重宝・刀剣男士の品格としてどうなのか、と。
この形のインナーを否定はしません。ただ、もう少しラインどりを工夫できたんじゃないかと。
男性でも胸の上(胸筋)を出すといやらしく見えるんだなと、ここいくつかの衣装で理解しました。背中がどんなに開いていてもいやらしさはないんですよねえ。
今回の場合だともう少し布の面積を増やして胸の上のラインまでは覆って欲しかったです。髭切の方が紐が一本高い位置にあるので覆ってる面積は多少多かったかもしれません。(でもたりない!露出よりも品格をください

途中で片肩出し、しかも腕の黒いパーツ(腕輪でいいんでしょうか)もかっこよかったですしトータルとしては、よかったと思います。
トップスがペラいという意見も見かけましたが、いろんなものの限界もありますし、私はあの柄は素敵だと思います。っていうか、あの黒と白の柄生地よく探してきたな…単体で見たら(えっこれ何にいつ使うの?)としか思えない。でもあれが無地だったらイマイチですよねえ。そういう柄生地と無地のチョイスが本当に上手ですね。

 

いやあ、再演が楽しみですね!またあのお衣装見たいなあ。改良されてくるのかなあ。ワクワクが止まりません。

 

 

今回の双騎は、予想のはるか上を超えてきた

全体的に色味を抑え、イメージカラーであるペールグリーンとペールイエローは第二形態の肩布だけです。

差し色の金色・紫色も鈍い色控えめな色を使っています。

舞台セットが今までにない『ある』舞台だったので、それともマッチしていてよかったです。

なんたって源氏兄弟髭切と膝丸がそれだけで華やかですから、衣装に余計な色はいらなかったのかもしれません。

なんていいつつも、随所に装飾が施されていたり色は地味だけど厳選された生地を使うことで舞台で映える美しいお衣装でした。

ありがとうありがとう。かっこいい源氏兄弟がさらにかっこよかったです。

 

追記

あのドレスコートのキラキラ生地、オカダヤさんのツイートで確認しましたが、スパンコール生地ですよね。

ダンスとかそっち系の用途が多いのかなとは思いますが、あの手の生地は柔らかくハリが少ないんです。つまり、あのコートが静止している状態で美しいシルエットを保つのには生地だけでは難しいです。専門的な話ですが、芯地を貼ったり裏地で調節したりしていると思います。あのスパンコール生地に対してもう半身の生地は(生地のアップ写真を探せなかったのですが)そこそこにハリのある扱いやすい布だと思います。

つまりてろんとした布とシャキッとした布を左右で縫い合わせて見た目同じ形にするってことです。

やべえですよ。自作の方は頑張ってください。芯地でそこそこいけると思います。

デザインをアシンメトリーにして誤魔化すという手もあったと思いますが、それをやってしまったら多分イメージが全く変わったでしょう。

妥協しない手を抜かないところにプロの凄みを感じました。

 


以下おまけ

衣装の生地がお高いらしいという情報を頂きましてサーチしたところ、ドレスコートの生地が自作レイヤーさん泣かせなお値段でした。
(具体的に言うと、幅〜80c,¥12000/1m なので半身使用でザクっと計算して1着あたり着丈の2.5倍くらい必要。一振り分でさんまんえん!)
私は服も衣装も作りませんし生地屋にも行かなくなってしまったので、公演と映像(物によりブロマイドや彩時記)を見ているだけなので生地の質感や細かいことはわかりません。今回生地屋さんのアカウントをフォローしたので生地のアップと素材とお値段がわかってますます興味深くなりそうです。
人と場合による、が前提なんですが、ステージ衣装の材料は普通にお店に買いに行きます。オカダヤとか特殊生地専門店とか見つからなければ日暮里でハシゴしたりします。量産品のようにたくさん作るのではないので着分(+α)しか買いません。数千円/1mだとそれも納得という感じでしょうか。
お得意様だと生地屋さんがサンプル持って来てくれる場合もありますが、明確なイメージを持って生地を探す場合は自分の足で回って見て選ぶ方が多いかもしれません。逆に、制服のような生地とかいったものはわかりやすくバリエーションも少ないので生地屋さんに問い合わせて見本を出しておいてもらうこともあります。
自分語りですが、生地屋さんで素材を眺めているとイマジネーションが膨らんで、こっちにこれを合わせたらどうだろうか、この装飾をつけたら面白いんじゃないか、とすごく楽しかったです。副資材コーナーは衣装にたくさん使われているブレードや模様の刺繍(今回の双騎のドレスコートについていた黒い模様の刺繍みたいなやつ)やレースが揃っていて、「こんな模様もあるのか!!」とワクワクします。作らない人でも何かのついでがあったら新宿のオカダヤは立ち寄ってみると面白いと思います。